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月の純真・星の憂鬱────累炎(9)

 ★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★

『何故また出会ったのか考えているのね』

閉じた瞼をゆっくり開けて、あのガラス玉の瞳を露にした女は、また俺に腕を伸ばしていた。その手は、よく見れば、俺に向けられている様にも何かを捜している様にも見えて、もしかしたら距離を確かめているのかもしれないとふと過った思いに俺にも解らない内を見透かされたというそんな気持ちは、二度目の遭遇とジェルミに訊ね、自分で調べあげた素性で、違和感を無くしていた。だから、首を振ることで彼女に応えた。

『貴方の隣にいる娘ね』

俺達に近づく彼女にミニョは相変わらず俺と彼女を交互に見ては、彼女に出会えた事を喜んでいる様で先ほどまで重くなっていた雰囲気が一掃されていた。まるで美味いものを見つけた時の無邪気な笑顔に変わった事にこいつは概ね単純だったと舌打ちが漏れそうになったがそれを抑えて彼女に声をかけた。

『貴女に会いたいと思っていたんだ』
『ええ、そうみたい・・・だからここにいるわ』
『ヒョ、ヒョンニム』

嬉々として彼女と会った事を喜んでいるミニョの心の内までは解らないが、何かを期待したような表情に軽い返事をしながら彼女、シュオンssiにあの時問われた事を訊ねた。

『辛いの!?だったかしら』
『ああ、そうだ、俺に辛いのかと聞いたな』
『ええ、辛かったでしょう・・・貴方の中に炎が見えたわ、とても・・・冷たい炎』
『・・・・・・・・・今は見えないのか』

その問いに彼女は答えず、今度は俺に手のひら見せ、ふわりとシャツが揺れる程度の距離で俺に触れる事無く腕を伸ばしていた。

『貴方の内にあるのは薄暗く灰色の・・・そう雨を降らしそうな雲ね、雲は蒸気を放って、それが炎の様に吹き上がって見える・・・形があるようで無くて・・・・・・怯えているのは貴方』

そう言われ、真っ直ぐ射られた瞳は相も変わらず色は無くて、ガラス玉が光っているだけなのにその中にぎょろりと動く眼球が見えた気がしたのはほんの一瞬で、瞬きをした彼女の眼にはやはり何も映ってはいなかった。

『占い師というのは怖いものだな』
『そう・・・そうかもね・・・見なくても良いものが見えることもあるわね』
『間違ってはいないだろうな』
『さぁ!?それは判らないわ・・・貴方が違っていると思えば違ってるいのかもしれない』
『は、所詮は他人事だな』

俺の嘲笑に彼女もまた笑っていて、この場にいて最も事情を飲み込めないであろうミニョは俺たちの会話にきょとんとした顔で黙っていた。いつもならその顔を揶って苛めたいところだが、今の俺にその余裕はなくて、この女に会いたいと思った気持ちを明らかにしたいと思っていた。俺が見透かされたなら、この女は俺に何を見たのか、それは俺とミニョの先行きをどう決めるのかを知りたかった。

『辛かった・・・でも、過去形だな・・・それをさっき別な女が教えてくれた』
『そうみたい・・・それで!?』
『どうすれば良いかは解ってるつもりだ・・・かけがえのない者はこの世に一つだけなんだろう』
『変えられるのも貴方だけみたいね』
『ああ、そうらしい・・・それに受け入れてもらえるのかを考え過ぎて、言葉にするのも躊躇った・・・辛いというのは多分それだろう・・・』
『貴方が思ってるよりもずっと硬いものだわ』
『もっと脆いと思っていたんだ・・・砂の塊みたいな感じだ』
『そう!?』
『ああ、もっとずっと脆くて、壊してしまうと思っていた』
『片割れの方が脆いでしょう』
『ふ・・・どうやらそうらしい・・・俺は見誤ったのか』
『違うわ、貴方は正しいわ・・・ただ、もう一つの月が太陽に見えるでしょう』
『ああ、そうだ・・・あれは、もしかして太陽に照らされているだけなのか』
『・・・そう!?そうね・・・それも少し違うかしら・・・あれは・・・彼は太陽でもあるわ・・・ただ月の満ち欠けに大きく影響される太陽かしら』
『影響するではなく、されるのか・・・なら、俺の行動は、太陽を消すと思うか!?』
『そこまで脆くは無いわ』
『ヒョ!!!ヒョンニム!?』

大きな声を出したミニョに俺の腕に縋りながら引っ張ったミニョに丈夫だとその肩を抱けば不安そうに濁りを浮かべた瞳が俺を見上げ、先程まで嬉々として見ていたシュオンssiにも向けられていた。片割れというのは当然ミナムの事で、今日ミニョが知った真実をミナムはもっと前から知っていた。あいつはそういう処は聡いのにそれがミニョに関わることだからなのだと今俺は突きつけられていた。

『後で・・・説明してやる』
『ミアネヨ・・・アガッシ(お嬢さん)』

多分にミニョは、自分の事だと気付いただろうが俺はそれを綺麗に無視することにした。

『あいつの夢・・・みたいなものを壊したのか!?』
『そう・・・ね・・・貴方が壊した・・・いいえ、正確にはまだ壊れていない・・・けど、壊そうとしているという処かしら』
『いずれは壊れるものだろう・・・俺じゃなく・・・いや、俺だな・・・俺が壊す』
『壊しても脆く崩れるものではないわ・・・あちらもこちらも』
『はっ・・・そうか・・・俺にあいつと対峙するだけの勇気が足りないということか』
『身を焦がしてるのは貴方だけじゃないわ・・・そっちのお嬢さんも・・・よ、楽にしてあげるのね』
『ああ・・・そうしよう』

笑ったシュオンssiの顔に穏やかな微笑みに俺の迷いが全てを産み出したのだと思っていた。ミニョに出会わなければ、ミニョを愛さなければ、知らなかった感情。知っていたとしても人と関わりを持つことを嫌い、俺に向けられる好奇の目もその何もかもを跳ねのけてきた俺には生まれることのなかった感情は、ミニョに向けられた好奇の目を逸らそうとした事で新たな想いを生んだ。そしてそれは、ミナムの中には既に育っていた感情で、俺を愛したミニョを俺に愛されるミニョを知らず遠くに感じていたのかもしれず、口では何とでも言える事が、俺に向けられる悪態や言葉が、女らしくなっていくミニョを認めてはいても家族としての感情が嬉しくもあり、悲しくもあったのだろう。俺には縁の薄い感情。それは、兄妹のいない俺には解りようのないもので、あの唄を書いた俺の気持ちは、偏にミニョは俺のだと俺の手で変わる女なのだと主張している様なものだと思っていた。

『ああ、居た居たシュオンssi!もー、いっつも突然消えてしまって困ります!』
『ミアネ・・・迷ってしまうのよ』

沈黙を破った局のスタッフの一言で、止まっていた空気が揺れていた。じっと俺にしがみついているミニョは、シュオンssiが声の方に振り返ったと同時に軽い会釈をしていた。

『ありがとうございます・・・後は俺で考えます』
『ふふ、そうね・・・難しい事ではないわ、気負わずに話をしたら良いわ』
『ええ、また・・・お会いできる機会があれば・・・』

会わない方が良い事よと去り際に残された一言は俺の耳には届かなかった。スタッフに連れられて去っていく彼女の後姿を見送りながら、ミニョに帰るぞと告げれば、何か聞きたそうに瞳を揺らしたが、はいと言って着いてきた。

『今日は宿舎には帰らない』
『えっ!?』
『お前に話があるんだ』






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車中で、ハンドルを握った手を下ろしミニョに掌を見せていた。何の反応も無いその顔が気づいて手を乗せてきたのは、数分後で、俺も我慢強くなったなと思いながら、重ねられたミニョの手を強く握った。何から説明しようかと前を見据えて思案して、けれど、伝えられる事も伝えたい事も沢山ありすぎて、隠していた訳ではなかったが、結果的にミニョに何も云えなかった事が、ミナムの反感を煽り、ミニョを余計に傷つけたと思うとこの場に及んでもまだ躊躇いがあった。黙り込んでしまった俺を横から見ているミニョは、緊張した雰囲気を出していたが、スンと鼻を啜ると俺の手の下で動かした手で指先を絡めてきた。

『ヒョンニム・・・お辛いのですか!?』
『あ!?』
『辛いなら何も仰らなくても良いです・・・私は・・・ヒョンを・・・ファン・テギョンssiを信じていますから』
『・・・・・・なっ・・・んだよ・・・藪から棒に・・・』
『さっきの方・・・』
『ああ、今、有名な占い師なんだろう』
『ええ、ヒョンニムにお辛いのかと・・・』
『あ・・・れは・・・・・・』

あれは、俺の中にあるミニョをもっと蹂躙したいという想いを見破られたからだと心の内だけで答えた。ミニョの為に歌を書いて、ミニョの為にステージを用意して、けれど、箱に閉じ込めておきたいとか、俺だけを見ていて欲しいとか、俺のエゴをどうやっても解消しきれないのは、日に日に綺麗になっていくミニョを日に日にこの仕事に慣れていくミニョをどうやったって閉じ込める事も誰も何も見せないようにも出来ない俺の裡に育った感情が、炎を興して揺れていたからだった。




その身に育つのは冷たい炎
熱く焦がすのでは無く
冷たく身を燃やす




『なぁ・・・ミニョ・・・仕事・・・楽しいか!?』
『へ!?』
『あの歌・・・お前はどう思った!?』
『・・・・・・う、た!?ですか!?』
『ああ、今歌ってる歌、詞・・・というか』
『素敵だと思いますっ!ヒョンの作る歌はどれも素敵です!!幸せになります!!』

間髪入れずに俺の質問に答えるミニョはいつだって真っ直ぐで、俺のこんな気持ちを知ってか知らずか、にこにこしながら俺を見ている。いつの間にいつの間にか俺の隣にいるミニョは笑顔を零す事の方が多くなって俺を俺に愛されている事に自信を持っている。それで良い、それでいてくれずっと、そう思いながら歌詞を書いたのはあれは、まだ春先の事だったなと思い返していた。

『そ・・・うか!?』
『はい!ヒョンの作るメロディーは・・・うん・・・切ないものもありますけど・・・なんか・・・こう・・・頑張ろうって思います!』
『何を頑張るんだ!?』
『えっ・・・え、えと・・・そ・・・え、えっと・・・わっ、笑わないですか!?』
『・・・笑うような事なのか!?』

信号の変わり目にアクセルを落としながらもじもじしているミニョを横目で見れば、止まった車の中でそちらを見た俺を避ける様に窓を見て、妙な笑いを零して黙っていた。覗き込む様にミニョの名前を呼べばエヘヘと恥かしそうに笑った顔がこちらを向いて、俺を指差した。

『あ!?』
『えっ、えっと、そのあの・・・ですね・・・ヒョンニムを・・・好きでいる事』
『あ!?・・・・・・』

それは頑張らなければ続かない事なのかと一瞬目の前が暗くなった。しかし、その後に続いたミニョの言葉に俺はその顔を正面から見られないほど動揺して、信号が変わったと同時にアクセルを思い切り踏んでいた。

『ヒョ・・・ヒョンニムッ!!危ないです!』

エンジン音に混ざるミニョの声を聞きながら、俺の跳ね上がる心臓をどうにか落ち着かせ、徐々にアクセルを緩めた俺の目の前にはもういつも使っているホテルが見えていた。ミニョに話さなければならないことは仕事の事も含め沢山あったが、駐車場へ車を向けながら、そんな事よりももっと違う事をしたいと思っていた。

『なぁ、ミニョ・・・俺への愛情って、あの時から変わらないか!?』

あの時、どの時かと問われれば、それははっきりは判らない。ただ、ミニョを初めて抱いた夜、俺が感じたあの何とも言えない幸福感は、幸せだと思うと同時に不安を連れてきた。恋をすると馬鹿になると誰かが言っていたそれを信じられない位に冷静な頭で否定して、失った時の事を考えた。それは俺の母に対する感情にも似ていたが、ミニョと俺の間でそれは無いと打消しながら、冷たく揺れる炎を裡に宿した。

『ヒョンニムへの愛情ですか!?』
『ああ、俺は何点だ!?』
『ヒョンヘの愛情は・・・・・・・・・』

俯いたミニョの横顔に髪が落ちて片頬を隠していた。黒髪の隙間から見える唇が開いて閉じるのを見つめながら俺は、ミニョの髪を掻き上げ露になった耳朶に口づけた。

『・・・もう一度』

聞こえなかった振りをしてミニョの耳を食み、添えられた指先に口づけた。こちらを向いた顔が俺を凝視して、でも近づいた俺の顔にゆっくり瞼が閉じられた。

『俺を好きでいる許可をやるよ!その代り・・・・・・』

俺の唇がミニョに触れるのとミニョが目を開けたのは全く同時だった。けれど、俺の潜り込ませた舌に振り上げた拳も何もかもを俺に絡めとられたミニョの身体からはすぐに力が抜けて、ここがホテルの駐車上で、フラッシュの光にも気づかない程俺とのキスに夢中になってくれていた。そして暫くミニョの唇を堪能し尽くした俺は、行くぞともっと深くミニョを堪能する為に車を降りたのだった。






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数日後、朝食をどうするか考えながら階下の騒がしさに失笑が漏れた。階段を降りた俺の前では、新聞を持ってわなわな震えているミナムの背中越しにミニョが申し訳なさそうに項垂れていて、その理由は俺が一番知っていたが、何も見ないふりで横を通り抜け、いつもの様に冷蔵庫から水を取り出して振り返れば、俺を睨んだミナムと目が合った。だから、わざとらしく聞いた。

『何かあったのか!?』
『な・・・なに!?何かってな・・・ちょっとーヒョン!!どういうことか説明しろっ!!!』
『どうってお前の心配を取り除いただけだろう』
『そ・・・それは・・・そ・・・』
『お前もな、シスコンもいい加減にしておかないとこいつに振られるぞ』

明日発売される予定の新聞を持って早朝にやってきたユ・ヘイは涼しい顔でシヌの淹れたお茶を飲んでいた。ミナムの懸念は、ヘイにも相談されていたのだとこの日初めて知ったが、俺を見上げたヘイの顔は急いで来たのがバレバレな程、化粧も碌にしていなくて、こいつはこいつでミナムの事を心配をしていたのだと感じていた。

『シッ!シスコンな訳じゃないっ!俺はただ、ミニョが心配なだけだっ!』
『デートの後をつけて来るのは十分シスコンだろう!?過保護ともいうな』
『うっ煩い!大体ヒョンがあんな歌を書くから悪いんじゃないかー!!!』
『だから、その噂を沈めてやっただろう・・・お前ばかりが気にしていたと思うなよ』
『思ってないっ!そりゃ・・・ボイコットしたのは悪かったけど・・・納得出来なかったんだから・・・』

いつもの様に噛みついてはこなくても言いたいことを言うミナムは、しかし珍しく歯切れが悪かった。項垂れるミナムにこちらを振り向いたミニョが首を傾げたから、それに手を招いてこっちに来るように促せば、ミナムも不満な顔で後を着いてきて、テーブルに置いた紙面をくしゃくしゃにしながらまだ俺を睨んでいた。

『ふ、魔性の女は魔性の男の演出か!?か』
『魔性な男じゃないだろう!どっちかというと女嫌い人間嫌いの変人っ!!!』
『魔性なら俺の方が似合うな』
『えー、俺が似合うよー』

ありえないおどけた言葉に思わず全員が揃ってジェルミを見るという、いつもの賑やかな宿舎に戻っていた。俺だとジェルミの首根っこを掴んで笑っているミナムもいつもの様子に戻って、くしゃくしゃに折り目のついた紙面を少しだけ拡げてその記事を見れば、あの日、駐車場でミニョにキスをした俺の背中とミニョの顔も表情もバッチリ写っていて、ファン・テギョン遂に交際を認める魔性の女は魔性の男の演出だったとの文字が踊っていた。

『手間が省けたな』
『手間を省いたんだろう!魔性の女なんてミニョには似合わないからな』

カップとソーサーを片手に俺の後ろを通り抜けたシヌがソファに座ってリモコンを手にした。点けられたテレビの画面には丁度シュオンssiが映っていて、もう一度会えるだろうかとふと考えた俺の顔にミニョの掌が触れてそちらを向いた俺に首を振っていた。

『もう大丈夫ですよね』

訊ねられた事に何と問うでもなく顔を見つめていた俺の胸に額をくっつけたミニョは俺の鼓動を聞く様に頭を動かして、背中に腕を回してきた。

『炎は消えたのでしょう』

ミニョに話して聞かせた一部始終。俺の身の裡にあった炎の様に揺れる感情。その発端はお前だと告げた俺にミニョがしてくれた事。それは、俺が考えていたよりいともあっさり受け入れられて、むしろ俺が驚かされる事の方が多かった。

『ヒョンが好きですよ・・・ヒョンが大事です・・・だから、ヒョンも私の知らない処で哀しまないでください』

泣いている訳でも哀しんでいる訳でもなかったが、それは泣いているのと同じですと言ったミニョの言葉にハッとさせられたあの夜。ミニョが俺としたことは当然誰にも内緒だが、小声で話すミニョの頬に触れれば閉じられた瞳があの夜を思い出させた。

『!』
『!!!!!』
『っ!!』
『・・・・・・・・・』
『・・・ミニョ』

息を呑む幾つもの声を聞きながら唇を重ねた俺は、その身体を抱きしめながら、腕の中に仕舞い込んだのだった。




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身をその身を焦がすのは少年の笑顔!?
青年の切ない顔!?
それとも男性の端正な顔かしら!?
愛なんて計り知れないものよ
愛なんてあなたが思うより簡単に生まれるものよ
愛していると伝えてみることね
心の中は見えなくて
心の中は言葉でも上手く伝わらなくて
だから人は肌を重ねてみるものでしょう
手を繋いでみるものでしょう




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『ヒョ・・・いえ、オッパ・・・何かして欲しいですか・・・何をすればオッパの不安を取り除けますか・・・』

哀しそうな顔で瞳を揺らしたお前に俺の望みを口にした。

『え・・・そ・・・んな・・・事で良いのですか!?』
『・・・!?そんな事!?そんな事ってなんだよ・・・』
『え・・・ええっと・・・それなら・・・もっと早く言って下・・・さ、れば・・・』

赤くなって口籠って、俺を見たお前の瞳に揺らめきは無くて、真っ直ぐ俺を見て出た言葉に俺の心臓は止まりそうだったんだ。お前は知らないだろう。俺の不安を一気にかき消して、俺の愛を一気に加速させて、俺をお前から離れられなくしているのはお前自身だという事を。

『オッパ・・・えっと・・・お、願い、し、ます・・・もっと・・・沢山・・・愛して・・・くださ、い』

恥かしそうに耳元で口にされた言葉は、俺の炎の揺らぎを止め、大きく燃え広がらせた。だから、もう遠慮もしない事にした。お前が魔性の女と呼ばれても、それは全部俺のせい。お前を愛して濡らして濡れて書く歌は、俺のお前への極上の愛だとお前が知っていれば良い事だ。



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