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Far away, to you, I want to say(お家に帰ろう)!?(23)

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泣き疲れ、眠ってしまったミニョを抱きしめて横になっていたテギョンは、気配に身を起こし、寝ぼけ眼で辺りを見ているミニョを抱き寄せていた。
時間は、深夜に近く、昇りきった月の光が、西からピアノを照らしている。
たったひとつテギョンにとって譲れない家具。
音楽家だからと恰好を付けてそれを置いている訳では無い。
小さな頃、父の家に置かれていたそれにそこを叩いて聞こえる音のひとつに悲しさと楽しさを知った。
繋げて聞こえる音階に切なさと夢を持った。
楽器という存在に音を紡ぐ自分に母という存在もまた画面の向こうで歌っている事を知った。
母にもっと会えるかも知れない。
最初はそんな夢だった。
しかし、そんな夢が打ち砕かれるのにそう時間は、かからなかった。
それでもこの世界に足を踏み入れた。
母に会うことも増えた。
渇望を繰り返す中、コ・ミナムという歌手志望者に出会いその声に惹かれた。
コ・ミナムがコ・ミニョという女で、いずれ入れ替わらなければならないと解ってもミニョに歌わせたいとそれを諦めきれていない。
家を探している間、テギョンの第一条件は、ピアノが置ける広さだった。
広いだけの家を幾つも紹介された。
けれど、そのどれもに心は動かなかった。
この家も紹介をされた時、あまり期待はしていなかった。
しかし、このリビングスペースで、テギョンの中を通り抜けた風。
その風にミニョとまだ見ぬ子供の声を聞いた。
案内人に促され、全ての部屋をチェックしている間も至る所で声を聞いていた。
予感。
それは、一年も前に感じたものだ。
予感。
もうひとつは、まだ胸の内。
『子供の性別はどっちだと思う!?』
『へっ!?』
『どっちが欲しい!?』
『どっちって・・・どっちでも良いです・・・けど・・・』
見上げるミニョの額にキスをして、テギョンは立ち上がっていた。
『オッパ!?大丈夫ですか!?』
『ああ、他に何も置いてないから大丈夫だ』
ミニョの心配をよそにピアノの蓋を開けたテギョンは、鍵盤を叩き始めた。
『シューベルトのセレナード(小夜曲)!?』
『ああ、白鳥の歌だ・・・』
『ふふ、夜のしじまに貴方に届ける・・・』
『ふ、僕の前に降りて来て、僕の声を届けて・・・だったか・・・』
『ハイネの詩ですね』
頷いたテギョンの横へミニョが腰を下ろした。
並ぶ肩にテギョンの笑顔が深くなり、奏でる片手を残してミニョを引き寄せていた。
『来年は、三人ですね』
『ああ、来年は、三人で楽しもう』
来年は、この家で、テギョンとミニョともうひとり。
問題は、まだまだ山積みだ。
ミニョの妊娠を社長に報告して、仕事の調整をして、ミナムには、なんと伝えると演奏をしながらテギョンの頭はフル回転している。
婚約を発表して一年。
ふたりの結婚報道の陰でファランの隠し子騒動の真実は、この先も仄かに隠される。
けれど、ファン・テギョンの母がモ・ファランである事実は揺るがない。
結婚するならば、少なくとも家族には祝って欲しい。
親族として出席できなくてもファランもそこに居て欲しい。
それは、テギョンではなくミニョの願いだ。
それを叶える為にファランの提案を受け入れた。
『オッパ!?』
弾くのを止めたテギョンをミニョが見つめていた。
『ん・・・ああ』
曖昧な返事にミニョの揺れた瞳を見たテギョンが、慌てて腕を伸ばした。
『チッ、どれだけ泣くんだよっ』
『なっ、泣いてませんよー』
『ふ、ん、泣きそうな顔だ』
『そっ、それはー、きっと、妊娠したからですっ!お医者様にもそう言われましたものっ』
『ふっん・・・不安定になりやすいとは聞いてるけどな・・・次の検診は俺も一緒に行くぞっ』
『えっええー、ひとりで大丈夫ですっ』
『だめだっ!俺の大事な家族だぞっ!お前ひとりの問題じゃないんだっ!』
『そっ・・・うー』
言葉に詰まるミニョの唇に今日何度目かの軽いキスが落ち、触れただけの唇は、もう一度深く重ね直された。
蓋を閉めたテギョンの手に引かれて立ち上がったミニョは、薄暗い部屋を見回し、擦り寄ってありがとうございますと囁くとテギョンもありがとうと返した。
近い将来この家にただいまと帰るのだ。
近い将来、この家が、ふたりの住居になる。
けれど、今は、まだ。
『さーて、遅くなったし帰るぞ!飯も食い損ねたしな・・・何か食いたいものはあるか!?』
今は、まだ、A.N.Jellが待つ宿舎に帰っていくふたりなのだった。
                                            
                                          ────終────

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ルッキング!? #1の片翼だったけど、まとまり悪すぎたわん(笑)ふかーく反省(・∀・)
最後までお付き合いありがとうございました(-^□^-)