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美蕉────ぐれーな階段SideStory(1)

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「気になる」という感情は、時に人を支配する。「好き」という言葉を口に出し、「愛してる」に変わるまでの間に、俺とお前とあいつの間に起きた出来事をどう説明すべきだろう。


『愛してる』
『わたしも、愛しています』
『離れたくない』
『離さないで下さい』


そんな台詞が、今では、陳腐な言葉遊びにしか思えない。なぁ、コ・ミニョ、お前の愛は、何処へ消えた。俺が消したのか。それとも。


『アイシテルとお伝えしてるじゃないですか!!』
『そうじゃないだろう!!!』
『どうしてですかっ!!』


渦巻く感情は、抑えが効かなくて、グレーな階段を一歩一歩確かめる様に踏み締めていた。足元が覚束ない階段は、いつでも揺ら揺ら揺れて、上を見る事も叶わず、下を下を見下ろして、落ちない様に堕ち無い様にと慎重に登っていた。登っていた、つもりだった。


『っ・・・どうしてっ・・・』
『・・・・・・すまないっ・・・・・・っ』


謝っても謝っても、起こした事を無かった事には出来ない。泣きじゃくるお前の顔を真っ直ぐ見る事も出来なくて、ただ、その頭をかき抱いて胸に埋めた。その身を抱き締めた。嗚咽と共に俺の背中を激しく叩いていたお前に胸が、痛かった。何という事をと思いながら、それだけの事をしたと解っていた。それでも、それでもお前を抱いた事に後悔はしていなかった。


『こっ、んな・・・酷っ、ヒッ・・・グスッ・・・・・・』
『ミアン・・・ミアネ・・・ミアネヨ・・・ミニョ・・・サラン・・・サランヘヨ』


愛してるとそう告げた。その一瞬に、お前の動きが止まっていた。泣き声も、嗚咽も、俺をいたぶる腕の動きも、俺のボロボロになったシャツを掴んでしゃくりあげたその顔におそるおそる視線を合わせ、俺を真っ赤な潤んだ大きな瞳で見上げたお前に、吸い込まれた。


『サラン!?』


小さな声が、喉から絞り出すように零れ、動いた唇の動きに声も無く頷いた。触れ合った唇。ふっくらと濡れた舌が絡み、小さな舌を吸い出す事に夢中になった。お前の首筋、竦む首筋に手を這わせ、掻き分けた髪の艶やかさに指が踊った。耳朶に輝いたピアスに心が、躍った。俺の贈った星の輝き。シルバーの一粒ダイヤのその輝きをお前は決して外さない。


『涙・・・みたいです・・・』
『そうか・・・星だろう』


そんな会話が思い出された。お前の愛はここにあるのに。どうして、心が追いつかない。お前と俺とあいつとのこの覚束ない足元を埋めてくれ。