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仕事をすっぽかした昼下がり。俺は、高層マンションの駐車場にいた。ミニョのデビューは、諸手をあげてとはいかないまでも了承をした。何よりも当人がやりたいと思った事が決め手ではあったけど、俺の夢に巻き込んだんじゃないかとずっとそう思ってきた。泣き虫であどけなくて小さかった妹が、美しく凛として大人に変わっていく様は、嬉しいけれど淋しさみたいな、どこか遠くへ行ってしまうような虚(うつ)ろなものを感じる事もあって、自分も勿論変化をしているし、双子だけど男と女でいつまでも鏡を見ているみたいにはいかない。けれど、ヒョンによって女に変わったんだと思いたくない自分もどこかにいて、俺ってシスコンなのかなとヘイに相談をしたら、そうよと鼻で笑われた。
『あんたみたいなのをシスコンって言わなかったら、どんなのがシスコンなのよ』
『どんなのって・・・デートに着いて行くとか!?』
『着いて行ったでしょう』
呆れた顔で言われ、確かに着いて行ったなと思い返していた。でも、それは面白いかもと思ったのとヒョンを少し困らせてやろうと軽い悪戯心だったし、ミニョを大事にするとか俺に宣言した癖に何かというとミニョを泣かせてるヒョンが何ていうか、たまらなく歯痒くて、潔癖症で偏屈だけど、男としては立派なんだろうとそう思っていたのに意外と詰めが甘いというか、最後の一押しが足りないというか、ミニョの事を考えてやってる事なんだろうけどその結果が散々で結局泣かせてるとか、ミニョは、あいつのどこを頼りにしているんだろう。
『そんなの好みの問題でしょう!あんた、あたしの事を好きだって言うけど、コ・ミナ・・・ああ、ミニョ・・・ね!あの子あたしの事をそんなに好きじゃないと思うわよ・・・虐めた事もあるし、そういう処だって違うでしょう!ファン・テギョンのあの子を思ってる気持ちと自分の気持ちが違うからって、それを受け入れられないななんてあんたはやっぱりシスコンよ!』
そんな事は無いと思うとそう返したら、驚いた様な呆れ顔で俺を見ていたヘイは背中を向けてしまった。何を言っても無駄ねと溜息混じりに聞こえた呟きにやっぱり俺ってシスコンかなと考えていたけど考える原因はやっぱりヒョンがあんな歌を作るから悪いんだと思っていた。
『ミナムー!行くわよ!』
『ん、あ、ああ』
エレベーターを降りて来たヘイが、車のドアを開けてハンドバッグを振っていた。昨夜の余韻はもう既に無い。ユ・ヘイとしてそこに立つ彼女に俺もA.N.Jellのコ・ミナムへと成(カタチ)を変える。
『どこに送れば良い!?』
シートベルトを嵌めながら、薄暗い駐車場の隅で、俺が乗り込むのを待ってエンジンをかけたヘイに行先を告げて、シートを倒せば、アクセルを踏みながら溜息を吐いて良いのかと聞いてきた。
『良いも悪いもヒョンは、今回俺を外してやるつもりだからな』
『ミニョは知らないんでしょう』
『ああ、A.N.Jellでバックバンドをやると思ってるだろうな』
『・・・・・・まぁ、A.N.Jellには違いないわね』
『そうだな・・・』
『ふぅぅ、もう!!送ってあげるからファン・テギョンにちゃんと謝りなさい!!』
『ああ、解ってる』
素っ気ない返事をして、またヘイに溜息を吐かれた俺は、この後の撮影場所に送って貰ったんだ。
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最後のフレーズで、少し詰った音にシヌを振り返れば、片目を閉じて俺に合図を送ってきた。珍しいなと思いながらも、ライブだから良いかと軽く頷き、次に活かそうと気持ちを切り替えた。最後の一音まで椅子に座って膝を叩きながら身体を揺らしてリズムを執っているミニョは、笑顔のままでカメラを見つめて、そのまま撮影は終った。
『お疲れ様です』
『ありがとうございます』
『素敵な曲ですねー』
『色っぽいかも・・・』
そんな感想とも挨拶とも飛びかっているスタジオで拍手をくれるスタッフに頭を下げれば、プロデューサーが、俺に近づいてきた。
『やぁ、テギョン!今回も良い曲だね!』
『ありがとうございます』
『歌詞と衣装を見た時は彼女のイメージとは合わないんじゃないかと思ったけど、いや中々ミスマッチで面白い』
『そうですか』
椅子に座っていたミニョを振り返れば、座ったままの姿勢で前屈みになり足を擦っていた。痛いのかと思いながら、プロデューサーの話を聞き続け、その間にジェルミとシヌがミニョに近づいて行くのが見えていた。
『ミーニョー、ケンチャー!?』
『まだ、痛むのか・・・』
『あ、ええ、少し・・・・・・』
そうかというシヌの声が聞こえて、ジェルミにギターを渡していた。ハッとした俺は、まだ、話したそうにしていたプロデューサーへの相槌もそこそこにミニョを振り返ると案の定シヌが正にミニョを抱き上げようとしていて、慌ててその場に駈け寄った。
『俺が連れて行く!』
『えっ!?あっ!?』
シヌの手を捕ろうとしていたミニョの腕を掴んで腰と膝裏に腕を入れて抱き上げ、振り返ると台本を手にしたプロデューサーがニヤついているのが見えて、少し不愉快な気分だったが、口元を隠した彼が、首を振った仕種と俺の胸に顔を擦りつけたミニョの仕種が同時で、どうしたんだと覗き込めば、ミニョが首を振っていたが、表情は見えなかった。
『ふふ、いやー、可愛いねー、真っ赤だよ』
茶化す様な口ぶりの彼にミニョは益々俺に顔を擦り付けていて、これはこれで嬉しかったが、違う顔だねと言った彼に複雑な心境だった。
『歌ってる時とは全然違う、楽曲のせいかな・・・他の歌も楽しみだね』
『ありがとうございます・・・急ぎますので、これで・・・』
『ああ、大した事はないだろうけど、気をつけて』
終りそうもない彼の話にシヌが割り込み、俺の肩を押していた。ミニョを抱いたまま頭を下げた俺は、そのまま駐車場に向かったのだった。
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