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月の純真・星の憂鬱────累炎(2)

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歌番組の収録を控え、ミニョは、スタジオの真ん中で、シヌとジェルミに付添われるようにしてリハーサルをしていた。その動きはぎこちなくて、まだこういう場所に慣れない難さが現れていて、仕方が無いかと思いながら、ステージに近づいて行けば、途端に緊張の面持ちが安堵の色を浮かべて、そんな表情の変化にほくそ笑みながら、どうしたと聞けば、意外な答えが返ってきた。

『あのね、ミニョが、そこで転んじゃったんだ』
『ああ、それで、少し振り付けを直してる』
『なっ、なんだとっ!!!』

転んだというミニョの足にはほんのり打ちつけた痣が出来ていた。大丈夫なのかとその場にしゃがみ込んでミニョの足に触れようと覗き込めば、俺からそれを隠す様にシヌの後ろに廻り込んでしまった。

『だっ、大丈夫です・・・えと、そんなに痛くない、です、し・・・』

痛くないと言っても振り付けを変えるという事は、少なくとも動きに支障があるという事で、生放送では無く撮影である事が、誤魔化しが利くという事だった。踊る要素は無かったが、衣装は、歌に併せて新調をしていて、ミニョが出来るだけそれを映したいと言った事で、こんな事態になっているらしかった。

『たかが、衣装だろう』
『そうです!でも、折角作って頂いたのですから!皆さんに見て欲しいのです』

そんな一生懸命な言葉にまたしても俺の為かと溜息が零れた。いつでもこうだ。自分を犠牲にしているつもり等こいつには毛頭無いのだろうが、それは、俺が不用意に言った一言が多分原因。

『衣装なんかどうでも良い!動けないなら座って歌え!撮影を待たせるだけでも迷惑だ!』
『ああ、そうだね、そうしようミニョ』
『そうだよ!ミニョ!終ったらすぐに病院に行こうよ!無理して立ってる方が良くないよ』
『・・・・・・・・・っ、かりました・・・・・・』

プロデューサーにもそれで納得をしてもらって、ミニョの為に椅子を用意してもらった。痣は上から化粧をする事で隠し、撮影を始める為にギターを手にして、ミニョの隣に立てば、シュンと俯いた頭が揺れて俺のスーツを引っ張っていた。

『ヒョンニ、ム・・・』
『何だ!?』
『怒って、ます・・・か・・・』

俯いて、半ば眉尻を下げて、上向いた顔を見れば、泣き出しそうで、これから歌う歌には決して相応しくない表情をしていた。そんな顔をさせたのも俺かと思うとまた溜息が出たが、今は仕事中だとミニョを見れば、ハッとした顔が首を振った。

『そっ、そうです!!すみませんっ!!頑張りますっ!!』

軽く頬を叩いたミニョに少し冷たかったかと思いながら、後ろのジェルミとシヌを見れば、ジェルミはミニョを心配そうに見ていたが、シヌは、相変わらずのポーカーフェイスで俺を見ていて、あまり良い気分はしなかったが、やるぞとギターを携えた俺に頷いた。

『えっ!?あっ、ヒョンニム!!ミナムオッパは!?』

きっかけの音を掴もうとジェルミを振り返った時、ミニョの声にしまったと思った。本来ならここにいるべき筈のミナムが今日はいなくて、そのいない理由もミニョにはまだ説明をしていない。カチンとスティックを鳴らしたジェルミもそういえばと言い出して、俺はどう説明するか頭を悩ませていたのだった。






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『ミニョに歌わせるのか!?』

そう、ミナムに聞かれたのは、宿舎の地下でピアノを弾いていた時だった。防音ルームでもある為、没頭していると扉が開く音も聞こえず、グランドピアノの向こう側に立ったミナムを見た時は、とても驚いていた。

『あ、ああ、それが!?どうかしたのか!?』

ぶすくれた表情で、俺を見ているミナムに何かまずいのかと聞けば、背中を向けてピアノのくびれに寄りかかり、天井を見上げたまま黙ってしまった。

『ミニョを歌手デビューさせる事は、決定事項だぞ』
『・・・・・・・・・社長に聞いたよ・・・ミニョも歌いたいって言ったって』
『ああ、俺の楽曲なら何でも良いと言ってた』
『ふーん・・・それで、今のがそうな訳!?』
『ああ、デビューと言っても最初からアルバム先行で行く・・・ミニョの露出は極力避けたいからな』

恋人と世間で騒がれ始めたのは、ミニョをモデルデビューさせて一年程経ってからの事だった。俺との共演ばかりしているミニョに多少なりとも誹謗中傷はあるだろうと予測をしていたが、それは、思った以上の反応で、メディアや古くからのペンは事情を知っている者もいて抑えが利いたが、如何せん万衆までは、閉め出せないのが現状だった。ミニョと出会ってその後のA.N.Jellの楽曲に付いた、まして俺のファンである彼女達を閉め出すのは、A.N.Jellの存続にも関わると社長にも強く苦言を呈され、俺個人のペンだけならそんなものはどうでも良かったが、シヌやジェルミ、ミナムのファンも当然いるだろうと言われるとそれ以上自分を押し通す事も出来なかった。

『ミニョに歌わせるには・・・』
『!?なんだよ・・・』
『ミニョに歌わせるには早すぎる!!!』
『っはぁ!?』
『今の歌・・・ミニョにはまだ早いっ・・・!!!俺は反対だっ!!!!』

キッと鋭くきつい眼差しをこちらに向けたかと思うとバタバタと走って去ってしまったミナムに何が言いたいんだと声を掛けたが、空しく響いただけだった。






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ひねくれた唇から零れる囁き
待っていたの
いつくれるのかとわたしの準備はもう出来ている
ねぇ
あなたの準備はまだなのかしら
待ちきれないわたしの唇ルージュを引いて
不機嫌なあなたの胸にノックをするわ





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