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月の純真・星の憂鬱────累炎(4)

 ★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★★★★★★☆☆☆★★★★★

『大した事はないらしい』
『そうか・・・すぐ帰って来るのか!?』
『いや、今夜はホテルに泊まる』
『えっ!?ミニョもか』

ああと返事を返してそうかと何か言いたそうに返ってきた返事に気付かない振りをして電話を切った。シヌの言いたい事は何となく解っていた。ミニョとふたりきりで過す時間をミナムがあまり良くは思っていない事を心配しているのだろう。現に今回のアルバムの発表も何か勘違いをしているのは解っていたが、それをどう納得させるべきかと思い悩んでいる間にミナムは、パートを拒否してきた。ミニョのバックバンドは、何も俺達A.N.Jellが務める事が決まっているものではない。ただ、アルバムの作成は、シヌもジェルミも携わりたいと希望があった。それなら一湊A.N.Jellでフィーチャーリング(客演)という形を執る方が互いのイメージ戦略として懸命だとアン社長の判断もあった。しかしここにミナムが参加しない事を今日の撮影はともかく今後どうするかが新たに俺の頭を悩ませていた。

『ヒョンニム!?』
『ん!?』

ベッドに足を投げ出して座っているミニョが、眦を下げて心配そうな顔で俺を見ていた。携帯を切ったまま背中を向け黙っていた俺を訝ったのだろう。何でもないと携帯をソファに放り投げてミニョに近づけば、俺を迎え入れる様に両腕を拡げた。

『本当ですか!?』
『ああ、大丈夫だ、お前が心配する事じゃない』

ならいいですと唇の中で転がった声を唇で奪い、小さな吐息を漏らしたミニョのその吐息ごと口付を深めた。

『ぁ・・・ヒョ・・・』
『しっ、黙れ』

息継ぎに作った隙間で、問いかけるミニョにけれど一分の隙も与えず、肩を掴んでいた手を握り込みそのまま体重をかけた。柔らかい布団の上にさらりと落ちるミニョの髪が扇の様に拡がり、豊潤な香を運んで俺の鼻腔を擽っていた。

『ぁ、んヒョ・・・』
『ん、ミニョ足りない』

角度を変えて何度も唇を奪い、驚いて大きな目を開けるミニョを上から見下ろして、唇同士をくっ付けたままそんな台詞を吐くのは何度目だったか、足りないのは、もっとこの先へ行きたいと思っている俺とミニョを大事にしたいと思っている俺との鬩(せめ)ぎあいで乾く俺の喉で、開いていたミニョの唇がゆっくり閉ざされると困った様に瞳を揺らすのもいつもの事だった。

『ヒョ・・・』
『クク、冗談・・・』

冗談だと言いかけて身体を離そうとした。けれど、離れる筈の身体が上に上がらず、背中に回されたミニョの腕が、俺の髪に触れると、顎を上げ背中を逸らしたミニョが俺に口付けてきた。

『あっ、あの・・・そ・・・』

触れるだけの頬を滑らせるような口付に俺に触れる唇と手のひらからじんわり熱さが伝わり、そんな事をしておいて恥かしいのか俺の首に顔を埋める様に抱きついてきた。

『あっ、ヒョン』

だから、お前が悪いんだとそんな気持ちを込めてもう一度ミニョをベッドに縫い止めた。触れるだけのキスを何度も顔に落とし、髪に隠されていてる耳朶や、長く伸びた鼻筋、鼻の頭、瞼の上、膨れる事の多い頬、額にも余す事無くキスを繰り返しながら、ミニョの腕の下に触れ、俺の胸に潰されている膨らみに手を掛け、服の下のデコボコした感触を指で感じながら、けれど、その隠された頂に指が触れた瞬間、肩を押されていた。

『ヒョ』
『冗談だと言っただろう』

今度こそ、ミニョから離れ、隣に寝転がった。何をしてるんだ、何をしたいんだとそんな事を考えながら、したいことは一つだと結論付け、溜息を零した瞬間、起き上がったミニョが、俺の胸に顔を乗せた。

『すみません・・・』

謝る必要などないのに謝るミニョに心臓がキュッと縮んだ。そうだ、お前は何も悪くない。俺が理性を抑えきれなくて、これは本能だといえばそうだが、男として、お前を守りたい気持ちとお前に嫌われたくないという感情がせめぎあい、お前が俺を好きだという気持ち以上に俺はお前を好きなんだと閉じ込めてしまいたいと思ってしまうんだと考えていた。

『ミニョ・・・風呂に入って来い』
『えっ!?』
『それとも一緒に入るか!?歩けないなら連れて行くぞ』

胸に顔を埋めるミニョのその髪を梳きながらそう告げた。風呂上りのこいつを想像すれば、益々理性は崩壊しそうだが、温まると割と直に寝てしまうミニョだから俺が風呂に入っている間に眠ってくれれば良いとそう思いながら起き上がった。

『一緒が良いか!?』
『やっ、だっ、駄目です!一人で入ります』
『チッ!確かめるチャンスなのに』
『なっ!!!いっ、行ってきます』

何を想像したのかボンと音でも聞こえそうなくらい真っ赤になったミニョは、慌ててベッドを降りて行った。バスルームの扉が開閉され、ミニョの鼻歌が、今日の撮影の曲を奏で、それを聞きながら、ベッドに沈み込んだ俺は、そうだとミナムの事を考え始めた。

『チッ!ミナムの奴、どういうつもりなんだ』

A.N.Jellにミナムが加入してから、こんな事は初めてだった。ミニョがアフリカから戻り、俺達と仕事をする様になってからも特に目立った反抗はなく、ミニョの事で俺の意見に対立する事はあっても、仕事をすっぽかす等、決してしない奴だったのに、今回、何がそんなにミナムの逆鱗に触れたのかが全く理解できず、ずるずる今日を迎えていた。しっかり話をしなければと思う反面、あいつの言う事はどこまで信用して良いものかという猜疑心もあって、ミニョが絡まなければ何でも無い事もミニョが絡むと途端に敵意むき出しで揶揄っているのか本気なのか、あいつがシヌの様に恋のライバルというならそれも理解しやすいのにミニョの兄貴である事が俺を余計に混乱させていた。

『・・・ミニョには早いと言ってたな・・・』

録音前の譜面に歌詞を書いたものをそれぞれに渡し、一度音を併せた。その時誰の曲とは伝えなかったが、シヌもジェルミも色っぽいという感想だった。

『そういえば・・・あの時、ミナムは黙っていた・・・・・・』

ミナムの態度を思い返し、見つめていた天井から視線を逸らした。すると全く同じ顔が、俺の様子を窺うように壁に隠れながらこそこそこちらを見ていて、俺と目が合うと逃げる様に身体を隠していた。何をやっているんだと思いながら、その姿を浮かべれば、世話の焼ける奴だったと溜息が零れた。

『おい!コ・ミニョ!!こっちに来い!!!』

声を掛ければ、またチョコンと壁から顔を出したミニョが、唇を突き出して顔を覗かせた。その手にはタオルとドライヤーが握られていて、半分だけ乾いた様な髪は、自分で乾かしたのだろうが、如何せん水滴が頭から垂れていて、碌にタオルも使わずにドライヤーを当てたのが目に見えていた。

『・・・ヒョン・・・』
『乾かしてやるから早く来い!!』

ポタポタ水の垂れる頭で俺の前までチョコチョコやって来たミニョは、俺がタオルとドライヤーを奪うと不満そうな顔をしながらも俺の前に座りこんだ。家にいる時も何度もこんな事をしているせいか、もうすっかり慣れっこになっている行為にこれはこれで楽しみを見出していて、ブォーと強めの風をミニョの頭から首筋に当てれば、擽ったそうに揺れるミニョの肩が俺を満足させた。

『ヒョ、熱ッ』
『煩い!いつも言ってるだろう!風邪でもひいたらどうする!大体お前は前科があるんだ』
『あっ、あれはぁ・・・・・・』

俯いて、当たる風に肩を竦めながら説明をしようとするミニョの頭を押さえつけ髪を梳いて、知ってると心の内で思っていた。そう、あれは、ミニョが戻って暫くして、ヘイが俺に打ち明けた真実で、その頃、ミナムとの関係を世間にスクープされたヘイは、俺に嘘を見抜かれる事も大事だわと告げてきた。真実を見せ、嘘を暴かれればイメージダウンに繋がりかねないこの世界で、あいつは、その嘘を見事に演じきっているのにその嘘で人をミニョを傷付けた事を後悔していると告げてきた。ミナムと出会って変わったのは、何も俺だけじゃないとそう告げられ、恋をして苦しいのが自分だけと思うなと釘を刺されていた。

『ヒョン!?』
『ん!?ああ、終わりだ・・・すっかり乾いたな』

ヘイの言葉を思い出しながら、もしかしてと思っていた。ミナムの心配がもしそうならば、この先もそれは決して変える事は難しいかもと思いながら、頭を上げたミニョを見つめれば、顔を横に倒したミニョが、俺の膝に触れてきた。

『ヒョンニム!?心配事ですか』

探る様に俺に尋ねるミニョの表情は不安を浮かべて曇り、揺れる瞳が戸惑っていた。違うとミニョの手を握って首を振ればほっとした顔に笑顔を浮かび、そうですかと言いながら、俺の膝に倒れてきた。

『何かあるなら言ってくださいね、私じゃ力になれませんが、もし助ける事が出来るなら・・・』

助けますと顔を上げたミニョの表情に俺の押さえつけた理性が、崖の上から半歩足を出していた。ヤバイと思いながら、ああと返事をした俺は、ミニョにルームサービスのメニューを渡して好きな物を頼む様に指示をし、逃げる様に部屋を後にしたのだった。





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その顔は反則だろう
俺を弄んで楽しいか
お前の何気無い表情は俺を惑わし俺を苦しめる
一人の行為がこんなに虚しいものだと知らしめる
お前が欲しい
お前の身も心も
全てを奪い俺をお前に焼き付けたい





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