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閉じられた扉をノックし続ける指先に、固く閉ざされた閂が、ピンと横に張り詰め、
今か今かと小刻みに揺れる指先に上下した扉が、錠を外して小さな隙間を作ると、
差し込まれた指先を硬質の二枚目の扉が塞ぐ。
雨靄(あまもや)の如く立ち込める白い霧は、扉の隙間から漂い、やがて蒸気と共に
零れた水滴に硬い扉も隙間を開けた。
闇色と白の中に赤く蠢く物体が、白を促し、湿原へと引き込んでいく。
向かい合う陰は、煙霧を吹きあげ、湿度が外に漏れていた。
『・・・』
『聞こえないっ・・・』
冷たい言葉の陰にノックし続けた忍耐は無く、低く掠れた声が響いた。
『・・・どうしたいんだ!?』
吸い込まれた指先を閉じようとする扉の奥へ奥へと差し込みながら聞いていた。
『応えないなら・・・好きにするぞ・・・』
『・・・っ』
応えたくても答えられないのは、扉を閉じることも開けることも叶わないからだろう。
チリッと張詰めた空気が、裂け目を作った扉から抜かれた指先を別な扉に吸い込ませた。
『っ・・・ったいなぁ・・・何をするんだよっ!!』
『な・・・何っ・・・って、そ、それ私のセリフです!な、何をするのですかぁー』
向かい合うミニョの脹れて真っ赤になった頬を汗が伝い、荒い息の下で絶え絶えな
声を絞り出した。
『ふ・・・ん・・・何って・・・お前、この状況じゃ、することは一つだろう』
向かい合ったベッドの上で、テギョンの肌蹴た上着が肩からずれ落ち、大きく開かれた
双眸が、音が聞えそうな程、パチリと瞬き、くるりと背中が向けられた。
『な・・・あ・・・』
頬を両手で包み込み、ジッと閉じた瞼の下で、ぶつぶつモゴモゴ口を動かすミニョは、
何度も首を振って身を縮こませ汗の伝う顔を覆う。
その背中を見つめながら、肩にシャツを引き上げたテギョンは、さも楽しそうに口角を上げ、
準備運動をする様に首を動かしながら腕を伸ばした。
『することは・・・一つしかないだろう・・・』
頬を抑えた指先が搔き揚げて、無防備に曝されている耳に息がかかった。
『ひ、ぇ・・・っ』
飛び上らんばかりの勢いで肩を震わせたミニョの前のめりの身体は、しかし、前には
倒れず、見開かれた眼が下を見つめた。
『ふぅん・・・こっちの方が、苛めがいはあるかもな』
クククと喉で笑うテギョンの腕は、ミニョをガッチリ抑え込み、ふくらみに両肘をつけたままの
ミニョは、膨らんだ頬を窪ませた。
『後ろからってのも初体験だろう』
『な・・・な・・・な・・・な・・・』
『ナン!? ナン ノエゲ ワンジョニ パネッソ(あなたに首ったけ)!?』
前に回した腕に力を込め小さくなった身体を引き寄せ、髪に頬を寄せながら、
くぐもった声を出すテギョンにミニョの抵抗は全て抑え込まれ、全身を震わせた。
『いっ・・・』
『抵抗しても同じことだろう・・・何で慣れない』
『なっ・・・』
『まぁ、慣れない方が、俺の楽しみは増えるけどな・・・噛みつくトッキより
追いかけてくるテジの方が、疲れるけど、爽快感はあったな』
ツツツと服の上を動く指先に下を見つめ続けるミニョの目が、また大きくなった。
お腹に回る腕の行方を見守りつつ、テギョンの声に目が動く。
『キ・ス・・・して』
『へっ!?』
ククと笑う声は、ミニョの耳を通り抜け、肌が骨が神経が、腰を刺激する。
ズルリと力の抜けた身体に抱きしめるテギョンは、そのまま圧し掛かった。
『キ・ス・・・しろよ』
甘い顔して冷たい言葉、冷たい言葉で甘い顔。
引き倒されたミニョの顔は、きょとんと呆けた表情で、オズオズと伸ばされ首に
巻き付いた腕に肩に顔を埋めるテギョンの満面の笑みを引き出した夜だった。