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月の純真・星の憂鬱────累炎(7)

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『不安・・・か』

シヌの表情に込み上げた笑いから胸に生じたくすぐったさを抑えられなくて、零れた笑みにシヌの不満そうな表情が見えたので顔を引き締めた。

『ミアネ・・・そうだな・・・不安だ・・・な、俺しか知らないミニョを見ているから・・・な』
『惚気か!?』

のろけと問われてもその真意を話すつもりも無いので、ああと頷いてまた笑みを作った。作った笑みに真顔になったシヌもそうかと頷いてくれたので、これで良いと思った。

『不安になるのも悪い事ばかりじゃないんだろうな、お前の方がよりミニョを好きだって事だろ』
『ふ・・・ん・・・恋する者は不安も抱えるものだろ・・・幸せなんてほんの一握りの砂だ・・・掴んだ僅かな部分だけが固まって、塊を大きくする為には水分も必要だろ』
『泣かせるのか』
『ものの例えだ!恋に痛みはつきものなんだろう・・・泣かせたくないし、傷つけたくないと思ってるけど、ミナムの事まで考えていられるかッ!』

そうだなと頷いたシヌにそうだと返しながら、それよりもどうするかと考えていた。シヌとミニョの記事は、社長が掲載前に何とか止めることに成功したが、当時のあの試写会に事態を見聞きしている者は当然、シヌの事を聞きに来ていた。幸いというかなんというか助かったのは、シヌの素行がここの所小さなスキャンダルじみたものを何度かキャッチされていた事だ。

『そういえばお前、今度は、イ・ユニョンだって!?』
『ん!?ああ、可愛い子だったね・・・・・・会ったことないけど』

さらりと口にされる真実にまたかと思った。

『お前、ここの所そんなのばかりじゃないか!?』
『ああ、社長にも言われたんだけど、会ったこともない子の事でスキャンダルになるのもどうかと思うよね・・・かといって騒いでも認めたとか言われそうだし・・・俺の相手は俺が決めるのにな』

そう言って背中を向けたシヌは、また後でと俺を追い出すように机に向かったので、ああと相槌を打って部屋を出た。階段を昇りながらふと上を見ると壁から頭だけを出して覗いているミニョと目が合った。

『どうした!?』
『シヌひょんとお話終わったのですか!?』

心配そうに瞳をゆらゆら揺らすミニョにやっぱり言えないと思いながら、ああと返事をした。

『あの・・・私・・・』
『お前の事じゃない・・・次のアルバムの話だ・・・次の歌でそれなりのセールスが出ないと俺達のコンサートが無くなるんだ・・・』
『えっ!?』

真実では無いけれど嘘でもない虚実を並べて笑いながらミニョの肩を抱いた。朝食を食べ終えたミニョが俺にも食べろと言ってきて、キッチンを見ればジェルミの作ったおかずが所狭しと並べられていた。

『・・・・・・朝からパーティでもするのか!?』
『ちっがうよー!昨日バラエティに出たら、綺麗なお姉さんと一緒でさぁ、その人に朝食を10品作ったら、願いが叶うって言われたんだぁ』

後ろを向いていたジェルミがこちらに向き直りながら、まだ何かを作っているらしく、ボウルと泡だて器を持って振り返り、今夜もご馳走にするよと言った。

『今夜も収録がある・・・ミニョも連れて行くから食事はいらないぞ』

朝食は食べないし、夕方までは寝ようと思っていたので、そう告げてミニョの肩を離した。

『お前はどうするんだ!?』
『う・・・ん、コーディーオンニと美容院に行ってきます!少し髪型を変えた方が良いと言われたので』

そうか、とミニョの笑顔に頷いて、じゃぁ、俺は寝るからと部屋に引き上げた。






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『コンサート無くなっちゃうんですかぁ!?』
『・・・ん!?んー・・・そこまで深刻な事じゃないよー!俺達って結局人気と売り上げに左右されるから、それが次のコンサートの資金になったりするんだよ!アルバムの売り上げ次第でコンサートの規模も変わって来たりするの!ヒョン達はそういうのにも関わってるから、あんな事言ってるけど、実はどんな場所でも歌わせて貰えればそれでも良いと思ってるんだよ!この前も一緒に行っただろう!施設の慰問!』
『あ、あー、オッパのお友達のやってるボランティア施設ですね・・・』
『うん、前はね、ああいう所もちょくちょく行ってたんだよ!デビュー当時は三人で良く回ってたんだ・・・でも、俺達あっという間に売れちゃったからね!お客さんがきてくれる様になって、ペンクラブも人が一杯になって、アイドルグループとして、今トップだけど、トップだからこそ、それなりのものも要求されるんだよ・・・特にヒョンみたいなのは、完璧を求めるだろう・・・だから俺達にも解らないことがあると思うよー』





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そんな会話が階下で交わされている事など勿論知る由もない俺は、シャワーを浴びながら、ジェルミの言った女の事が気にかかり、部屋に戻ってパソコンの蓋をあけたのだった。





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『占い師!?占い師なのか!?』
『そうだよ!最近人気の占い師さんで!お医者さんでもあるんだ!滅多にテレビは出ないんだけど韓国出身で、家族の仕事の関係でこっちに戻ってきたらしくて・・・お友達の紹介でテレビに出る様になったんだけど、まだ一か月くらいだよ』

その女。いつかのテレビ局の廊下ですれ違ったあの女は、俺に辛いのかと聞いてきた女で、気持ちを押さえていると言われて、俺に何かを言いたげだった彼女は、俺に手を翳して何かを感じ取ろうとしていた。しかし、何よりもその容姿に驚いたのを思い出し、確か彼女は目が見えなかっただろうとジェルミに聞けば、見えないから感じるものがあるらしいよと返ってきた昼下がりだった。






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