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もう既に、あの時には、そう思うと胸がキリキリと締め付けられて、また、同じ思いを抱えた。どうして、どうして俺じゃ無いんだ。俺なら、俺ならお前にそんな顔はさせやしない。けれど、けれど、こうも考えた。もし、もしも、俺が、テギョンだったら、と。
『・・・コ・ミニョ!?』
深夜の撮影を終えて帰った宿舎のリビングで、蹲って膝を抱えていたミニョを見つけたのは、本当に偶然だったのだろうか。その日、ミナムは、地方ロケで帰宅をしておらず、ジェルミは、深夜ラジオの生放送で、明け方まで帰って来る予定はなかった。テギョンは、そう考えて、ここに居る筈だと思っていた。
『どうした!?こんな時間に!?』
電気も点けていないリビングのその片隅で、ソファに身体を押し付けて、膝を抱えていたミニョは、俺が点けた電気と、声に驚いて振り返った。こちらを見ているその顔に見つけなければ良かったと思ったけれど、見つけてしまったその表情は、かなり憔悴しきっていて、いつからそこでそうしていたのか、暗い翳の落ちた顔には、涙の痕が、残っていた。
『あっ、えっと、あ、シ、ヌひょん・・・お帰りなさい・・・』
笑おうと笑顔を作ろうとした顔にポロリと落ちた雫が、ミニョの頬を濡らし、その感覚に多分相当驚いたんだろう、あれと言って頬を抑えたミニョの瞳に大粒の涙が盛り上がっていた。
『ミニョ!?』
『あっ、えっと、すみません・・・なっ、何でもないです・・・大丈夫・・・えっと、え、そ、そう!えっ、映画を!映画のDVDを見ていたので・・・』
大慌てで勢い良くまくし立てるミニョの言い分は、どう聞いても言い訳にしか聞こえなかったが、大丈夫ですと明るく笑っているミニョにそれ以上詰め寄るのは、もっと泣かせてしまいそうな気がして、そうと返事をしながら、ダイニングへ向かい、他愛無い会話を始めた。
『何だ・・・俺を待っててくれたのかと期待したのに』
『えっ!?』
『ふふ、今日は、テギョン以外誰も帰っていないだろう・・・ミニョがリビングで眠ってるなんて珍しいから、俺を待っててくれたのかと思ったよ』
『ひょん・・・』
『はは、冗談だよ・・・ミニョも、飲むか』
ケトルに水を入れながら、キッチンでお茶の用意を始めた俺に、パジャマ姿のミニョが、コクリと頷くと、羽織っていたカーディガンに袖を通して、こちらにやってきた。
『今日は、俺のオリジナルブレンドだけど、それで良いか!?』
『はい!シヌひょんのお茶はどれも美味しいです』
『ふ、今度ミニョも一緒に行こうか・・・ミニョの好きな香りとブレンドで作ったお茶を煎れてあげるよ』
『えー、本当ですか!』
『ああ、どんなお茶が良いかな』
『そうーですね、ハーブティーとかも好きですし、お花の香りのするお茶とか・・・薬みたいなお茶・・・』
話をしている間にミニョの顔はいつもの明るさを取り戻していて、俺は少しほっとしていた。何があったのかは、正直判らなかったけれど、ミニョがあんな風に沈んでいる時は、決まってテギョン絡みだし、それに、宿舎に居るはずのテギョンの気配が全くないのは、おかしいなと思っていたら、ミニョがじっとこちらを見ていた。
『どうした!?』
『あっ、いえ、えっと、何でも・・・』
何でも無いと言う顔はしていないミニョが、少しだけ、身体を捩っていた。捩れた身体に外れた第一ボタンの隙間に見えたその翳に少し息が詰った。それは、と聞くのは、勿論憚られた。それは、もしかして、でも、そう見えないその痕に、何だと思いながら、湧いたポットを手にしていた。
『ふふ、コポコポ、美味しそう』
お湯を注ぐ、たったそれだけの行為を嬉しそうに見ているミニョに可笑しくなった。ミニョは、感動する事が多い。きょとんとしたり困った顔をしたり、戸惑っている事も勿論多いけど、俺達が仕事で感じるストレスフルな事も初めて経験する事や知る事が多いせいかも知れないけれど、大した事じゃないと思っている事に割りと感動をしてくれる。世間知らずだからなとミナムが言ってた事があるけど、そればかりじゃ無いのは、こうして、家にいる時にちょっとした事でも思うことがあった。
『さぁ、シスター美味しいお茶をどうぞ』
初めて、ミニョがシスターだったと知った時、空港で見かけた青い清衣が思い浮かんだ。清楚な青に身を包んで、白いフードを被っていたあのシスターは、今頃どうしてるんだろうとふとそんな事を思った。空港にいたくらいだから、きっと、どこかへ行く人だったんだろう。俗世から離れる人は、修行とか、そういう事をする為に権威ある教会へ勉強に行く事もあると聞いているからな。ミニョももしかしたら、ミナムが、A.N.Jellに入らなければ、そういう事をしていたのかな。
『ふふ、美味しい』
『なぁ、ミニョ・・・お前って・・・』
聞いてみようとそう思った時、カタンという音と共にテギョンがそこに立っていた。憔悴した顔は、ミニョのそれと似ていて、泣き出しそうな、何かを我慢している様なその顔は、見ていると何故か胸が痛くなった。
『ヒョンニムッ!!!!』
辛そうなテギョンの顔に声を掛けるべきかどうか考えている間にミニョが、立ち上がって、テギョンに駈け寄っていた。テギョンのシャツを掴んで、胸に顔を埋めて、ミアネという小さな声がして、ミニョの身体を受け止めたテギョンの顔が、この上なく驚いていた。開いた口が、ミニョの髪に埋められ、ごめんと聞こえた低い声にミニョが首を振っている。謝罪を繰り返すふたりの姿に何があったのだろうと考えたが、それは、ふたりの間の事で、俺が立ちいれるべきものでもない。そう思い直して、背中を向けた。
『シヌ・・・帰ってたのか・・・』
『ああ、さっき、帰ってきたんだ・・・テギョンは、買い物にでも行ってたのか』
『あ、ああ』
『そうか、ミニョが一人で、淋しがってたぞ、早く暖めてやれよ』
故意に選んだ言葉にテギョンの動揺が見えた。ああ、やっぱりそうかとそう思いながら、笑顔を作り、
お茶の道具をお盆に乗せ、横を通り抜ければ、テギョンに抱きついているミニョの顔にさっきよりも大きな涙が零れていた。何があったのか、それは、勿論知る由も無い。けれど、ミニョの身体についていた、キスマークと呼べるには、少しだけ、黒い傷跡に、ふたりの間が、壊れているのだろうかと疑心を抱いた夜の出来事だった。
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『すまない・・・ミニョ・・・』
『いいえ、私が、私が・・・』
『違うから、泣くな・・・』
『だって、オッパ・・・いなくなっちゃ・・・っ』
『違うんだ、ミニョ・・・俺が、俺の我慢が・・・』
『オッパ・・・』
『愛してる・・・コ・ミニョ』
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2015作者読み返しての追記(笑)
『ぐれーな階段』のサイドストーリーだったから(;'∀')
ミニョを襲っちゃったテギョンの後悔とミニョの戸惑いを横から見たお話でしたわヽ(;´ω`)ノ
あれ、ものすっごい初期に書いた一本だったから手直ししてまた出します(-^□^-)
あれがお好きだと言ってくださった皆様と初めて読む方へ感謝を(≧▽≦)