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Far away, to you, I want to say(お家に帰ろう)!?(20)

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『なんで泣いているんだ!?』
『えっ!?』
伸ばされた手が、指が、零れない涙を拭っていた。
怪訝なテギョンの顔色にミニョの唇が噛み締められていた。
『何があった!?何かあったんだろう!?』
ミニョの情けない顔は、テギョンの前で何度も披露されている。
しかし、今日の顔色は。
何だとミニョを見つめるテギョンにミニョの上向いた瞳が揺れていた。
『えっと・・・その・・・わ、たしひとりの問題では無いの・・・で・・・』
『あ!?』
すぐ後ろで激しいクラクションが鳴っている。
それに大きな舌打ちをしたテギョンは、信号が再び赤に変わる直前で急発進させ、驚いたミニョは、前のめりでシートベルトを握り締め、叫び、信号を越えた車は、再び停止した。
『何だって!?』
テギョンの声は、とても低く響いていた。
前を見据えたまま、信じられないものを見る様な目でゆっくりミニョを見つめ、ベルトをぎゅっと握ったミニョは、俯き、視線を泳がせていた。
『何て・・・言った!?』
『病院に・・・』
『出来たと言ったのか!?』
『・・・・・・・・・っ』
顔を傾けたミニョがゆっくりこっくり頷いていた。
肩越しにミニョを見ていたテギョンは、ハンドルを握り締めると無言で車を発進させた。
重く、のしかかる様な空気が車中に渦巻いていた。
僅かにドアに触れた手がパワーウィンドウを下げ、何のアクションも返さないテギョンに居た堪れない顔のミニョは俯いたまま、繁華街を通り抜ける車窓が追い越して行く景色を見つめ始めた。
その目から零れる涙は、窓に映る顔と光を揺らす。
けれど、やがて光も無くなり、車窓に映った顔に瞼を擦ろうとした手を掴まれていた。
『予定日は!?』
ハンドルを握ったままテギョンが漸くミニョに声を掛けた。
前を向いたまま運転中のテギョンは、角を曲がる度ミニョから顔を背け、その仕種は当然の事なのに返事をすることを躊躇うミニョは、狭い路地を抜け、勾配で停まった車の中でテギョンに顎を掴まれていた。
『コ・ミニョ!?聞いてるか!?』
シートベルトを外したテギョンがミニョに顔を近づけた。
上向く目から零れた涙は、ふたりが触れ合う唇に流れ着き、もう一度予定日はと静かに聞いたテギョンの前でミニョの唇が夏ですとゆっくり動いていた。
そうかと離れたテギョンは、ミニョのベルトを外すとドアに手を掛け押し開き、降りる様に促した。
のろのろ助手席を降りたミニョは、回って来たテギョンに手を繋がれ、小さなドアを抜けた。
その目は、まだ濡れていて、夕闇の中、赤い光が反射した窓を見上げていた。
『・・・・・・こ、こは!?』
緩やかな傾斜の向こうに真っ白くこじんまりした家が、建っている。
レストランにしては、普通の家に見えるとテギョンを見上げたミニョは、緩やかに微笑んだ顔に連れられ、石畳を歩き始めた。
その両側は、整備された樹木が立ち並び、登るに連れて見下ろされて行く。
『ここに来るのは、もっと先だと思っていたんだけどな・・・』
囁くような呟きは、風と共に耳を掠め、辿り着いた玄関でドアを見上げたテギョンが腕を引き、ミニョを胸に閉じ込めた。
背中から回る腕に手を添えたミニョもまた玄関扉を見上げている。
シンプルで何の変哲も無い普通の扉。
テギョンの腕に抱き締められるミニョは、何かを聞こうとして前に伸ばされた腕の先を見た。
『何ですか!?』
テギョンの手の上にシートに放り投げられていた小さな箱が乗っている。
『開けて見ろ』
革張りの黒い化粧箱は、ミニョの手に乗せられ微かな音を、起てた。
金属がぶつかる音にテギョンがよくくれる宝石箱の様な箱の蓋を開けたミニョの首が傾いていた。
『・・・鍵!?』
『ああ、そこに差し込めよ』
三本の内の一本を取り出したミニョの手にテギョンの手が触れた。
重なり、握られる手で同時に鍵を差し込み扉を開けたミニョは、再びテギョンに腕を引かれた。
靴を脱ぎ、上がり口に立つテギョンは、ミニョを待って、突き当りを指差した。
『まだ電気は通ってないんだ。お前が連れて行け』
言われるまま繋がれた手を引いたミニョが前を歩き、テギョンを連れて突き当りの扉を開けた。
フローリングの床に夕日が差し込んでいる。
ゆっくりと開いていく扉の向こう側で、右側を見ていたミニョの頭が左に振れ、テギョンの手が扉を全開にした。
『・・・ピ、アノ!?』
だだっ広いフローリングに白いグランドピアノが一台だけ置かれ、他に何も無い空間へテギョンが、ミニョの手を引いた。
『なんだか判るか!?』
きょとんと振られる首に腕を伸ばしたテギョンは、ミニョを再び胸に閉じ込めその耳に囁いていたのだった。