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ぽかんと開かれた唇に軽いキスが落ちていた。
シャツを掴んだ両手が握り締められ、振り返ったミニョは、辺りを見回して首を振りテギョンを見上げた。
その目から新しい涙が零れ落ちている。
『準備はしていたんだ・・・いつそうなっても良い様に・・・そうなってもおかしくないからな・・・』
ストンとミニョの腰が抜けた。
崩れる膝に腰を支えていたテギョンが、ミニョを床に座らせ、向き合っていた。
『い・・・つから・・・』
『一年ほど前だな・・・場所は決めていたが、手頃なものが無かったんだ』
『き、れい・・・』
床を撫でたミニョが、自分の手を見つめていた。
建物に生活感は無く、けれど放置されている訳でも無いらしい。
『定期的に掃除を頼んでいるからな。いつ引っ越しても良いぞ』
『ふえっ!?』
涙を浮かべながらテギョンを見た顔は、化粧も落ちてグシャグシャだ。
赤く腫らした目と瞼にテギョンの折り曲げられた関節が涙だけを落していた。
『結婚報道もされてるからな。このままここへ引っ越しても誰にも何も言われないぞ』
天上をぐるりと見渡したテギョンの戻って来た目が、お腹を見つめ手を当てるミニョを見ていた。
ゆっくりとミニョに握られた手を離すテギョンは、片膝で後ろに回り込み、両足をミニョの体の脇に投げ出して、ふわりと両腕を回した。
ミニョのお腹に触れている手に大きな手が重なる。
『ここにいるんだろう!?テミョン(胎児名)はどうする!?決めたのか!?』
『へっ!?』
『胎児名は、野暮な方が良いというからな・・・あまり格好良い名前は付けられないよな』
考え込み笑っているテギョンの手に更に手を重ねたミニョの瞬きを繰り返す目からまた滴が零れた。
手を濡らし、隙間を流れ、テギョンの手がピクリと動いた。
『まだ、泣けるのか!?』
『えっあっいっやっ、だっ・・・』
手をあげようとしたミニョより早くテギョンの顎を掴んだ手が首を後ろに回していた。
眦に触れる唇に滴を吸い込まれ、顔を撫でる手に触れたミニョは、肩越しに覗いているテギョンと目を合わせた。
『喜っんで・・・く、れる、の、ですか・・・』
『あん!?』
『だっ、だって、ヒョンニムッ困っ』
振り返ったミニョは、テギョンのシャツを掴み圧し掛かりながら顔を見た。
『はぁ!?俺がいつ困ったんだよっ驚いただけだっ』
『でっ、でもっあと半っ』
『あと半年は、仕事のキャンセルは出来ないさ・・・・・・けどな、そんなのどうとでもしてやるっ!』
押し倒される様に背中を床に付けたテギョンは、思考を次々攫いミニョの勢いを失速させていた。
『俺の子だ・・・俺とお前の・・・』
ミニョを支え、お腹を撫でたテギョンの腕がそっと体を引き寄せた。
『お前は、何も考えなくて良い・・・元気な子を産む事だけ考えてろ・・・』
『ヒョ・・・・・・パ・・・』
『ひとりで病院に行ったのか!?』
『え・・・あっああ・・・はい・・・ちょっとだるくて・・・熱も・・・あったので・・・』
『明日はパーティだったな』
『は・・・い・・・欠席は出来ないので・・・』
『そうだな』
『でっ、でもあのヒョン』
ガバッと顔をあげたミニョの瞳が揺れている。
見つめ合うテギョンの手がミニョの髪を掻き揚げながら身を起こした。
『チッ・・・ったく、お前、でももだっても言うなっ!俺が決めるっ!俺がお前を守ってやるっ!』
『オ・・・ッパ』
『お前・・・相当混乱してるだろう!?ちょっと落ち着けっ』
『へっ!?』
ミニョを抱いたまま座り直したテギョンは、頭を引き寄せてあやすように背中を叩き始めていたのだった。