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深夜のノックに開いた扉の先に居たテギョンを見たシヌは、些か驚いた硬い表情を取り繕いながら中に招いていた。
部屋を訪ねて来るのも珍しく、こんな時間にと思いながら自分で飲む為に用意していたペットボトルをテギョンに投げつけると受け止めたテギョンは、言い難そうに玩びながら口を開いた。
『暫く、休みが欲しい』
『俺に言う事じゃないだろう・・・』
『ああ、だが、お前には、相談をしておかないと後々面倒だからな』
何が面倒なんだと目で語るシヌにテギョンの重い口が溜息を呑み込んで饒舌に動き始めた。
『ミニョと旅行に行ってくる』
『旅行!?』
『ああ、暫く・・・だ・・・1週間くらい・・・』
『それで、俺にどうしろと言うんだ』
座れとも座ろうとも言わないふたりの間は、相変わらず見えない壁がそこに在る様で、扉を背に立つテギョンは、シヌの作業机を見つめていた。
『昨日の会見が原因か・・・』
『ああ、帰って来たばかりのミニョには悪いが、これ以上引っ掻き回される前に手を打ちたい・・・』
『それは、既成事実を作るって事か』
机に拡げられたパソコン画面には、シヌとテギョンとミニョ、3人で写る写真が映し出されていて、ジェルミの写真もその下に載っている。
『そういう訳じゃぁない・・・が・・・』
歯切れが悪いのは、見て見ぬ振りを決め込むシヌに感謝をしつつもどこかで未だ恐れている自分への言い訳を探し、信じていないのかと責められることを避けているからだ。
『1週間か・・・再来週からなら調整出来るかな・・・』
シヌの立場も重くなっている。
テギョンのそれとは違い事務所への影響力を持つほどでは無かったが、A.N.Jellのサブリーダーは、今やリーダーと変わり無く、テギョンが抜ける穴を埋めるのがシヌの仕事だ。
『ミニョの仕事は!?』
『1ヶ月は、休みの予定だ・・・来春物の新作発表会があるからパーティには幾つか呼ばれるだろうが、1週間くらいなら俺の方で話を付けられる』
『そうか・・・なら、構わないぞ!俺達も知っていたって事で良いんだな』
『ああ、そうしてくれ』
見えない壁は、見えないからこその信頼をそこに寄せていた。
『頑張れよ』
扉を閉めたテギョンの僅かに振り返った肩に声を掛けたシヌは、ポットからお茶を注いで飲み干していた。
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開けた目に薄暗い天井を見つめたままのミニョは、顔にくっついたテジトッキを胸に抱いて起きあがると丁度戻って来たテギョンを見つけて破顔し、近づいて来たテギョンに腕を伸ばしていた。
『ヒョンニム!お帰りなさい!』
『パボっ!お帰りは、お前だろ!』
『むっ、優しくないっ!』
『優しくしてほしかったら、ちゃんと俺に挨拶くらいしろっ!』
『むむっ!しましたよー!リビングに居たじゃないですかぁ』
『特別な挨拶をしろと言っているんだ!』
『特別って・・・』
突き出した唇に人差し指をあてるテギョンをぽーっと上目で見つめていたミニョであった。