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聞き返した口をあんぐり開けて、お腹を摩ったミニョは、椅子を回転させた医師に従って背中を向けていた。
『間違いないです・・・腰痛もそのせいでしょう』
聴診器を肩に戻した医師がパソコンに向かい、カルテを作成するのを回転してぼんやり見つめ、看護師に促されたミニョは、待合室で、暫く立ち尽くし、よろける様に椅子に座っていた。
『えっと・・・』
覚えがあるかという問に無いとは勿論答えなかった。
有り過ぎる位にある。
でも。
テギョンの言葉が頭を過ぎる。
計画的。
そんな事を思った頭の中で瞬時に否定された考えが、あと半年という言葉を浮かばせた。
半年待てば、婚約はしてる、結婚もすると言っている。
でも、あと半年。
お腹が膨れるのはいつ頃からだろう。
体調は。
気分が悪かったのは、これのせいなの。
押し寄せる思考にどうしようと携帯を握ったミニョは、電話をかけ始めた。
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『ヒョンが謝るのかよ』
『ああ、俺のせいだからな』
『何でヒョンのせいな訳!?あの女が決めた事だろう!』
権利書とCDの束を前にイ・スジンとコ・ジェヒョンの写真を並べていたテギョンの手が止まるとミナムを見た瞳が細くなり、やがて逸らされていた。
『チッ!結局あの女が大事ってことかよっ』
『・・・・・・否定はしない・・・あんな女でも俺を産んでくれたからな・・・』
『はっ!ヒョンも随分あの女の肩を持つようになったんだな!嫌いじゃなかったのかよっ』
『嫌いだ・・・今でもな・・・』
『嫌い嫌いって!嫌いな奴がなんでここまでするんだよっ』
テギョンとミニョが帰国して、その夜、その足でファランと一緒に食事をした。
完全個室のその席にアン社長も居て、ミナムは、話を聞くに留まり、悪態の一切を呑み込んだ。
『”言葉も無く”だけじゃ満足出来ないのかよ・・・』
『お前も知らないだろうが、正規に提供された曲があった・・・発表はされなかったらしいがな・・・』
『ふ・・・ん・・・だったら、俺の許可なんて必要ないだろう・・・アッパが提供してんなら・・・』
『提供はされているが、発表されてないと言ってるだろう。コ・ジェヒョンの名を出すんだ・・・お前の許可はいる・・・それに、これは、オモニの意向だ・・・お前に何も言わず勧めたくは無いそうだ』
『チッ!今更・・・』
横に逸らした顔で、テギョンの手元を見つめていたミナムは、目を閉じて首を振った。
コ・ジェヒョンは、誰も知らない作曲家だ。
女の意地とプライドによってファランがテレビで紹介したこともある。
が、息子にバレた嘘交じりの執着を持った歌は、正式な発表をされなかった。
何よりも息子を失いたくないと考えたのは、ミニョと再会したからだとも聞いていた。
イ・スジンに似ているミニョ。
受け入れ難い恋敵。
その血縁は、全て憎くて然り。
しかし、愛して止まない男の血縁でもある。
そんな葛藤など知る由も無いが、ミニョとテギョンがこの先も一緒に居るというのならそれもまた、愛憎を覚える事もあるだろう。
結局は、切れない縁。
ミナムがどう思っていようとミニョは、テギョンが好きで、そしてテギョンもミニョを愛してる。
ミナムがファランを嫌いな理由は、幼い頃のもっと本能的なものだから、そんなものに因果は無い。
少なからず、ファランとの距離を保って、上手く立ち回るべきだ。
『あー、もう!判った!それで、俺は、どれにサインをすれば良い訳っ!』
黙々と作業を続けるテギョンの前で熱くなった頭をペットボトルで冷やしながら差し出された書類にサインをしていたミナムだった。