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Far away, to you, I want to say(お家に帰ろう)!?(18)

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ホテルに戻ったファランは、フロントで受け取ったメッセージを読みながらエレベーターに乗り込んでいた。
『了承は取れたのね・・・』
ファン・テギョンと書かれた伝言に笑みを零し、けれど、緩んだ頬と唇を引き締めていた。
『話って・・・何かしら・・・』
ドアの前で深呼吸をしたファランは、サングラスを外してから中に入った。
正面のソファでドアの開く気配に立ち上がっていたミニョが頭を下げ、小さくなっている。
『こんにちは』
『あっ、えっと、その・・・すっ、すみません』
どこか弱気な態度のミニョにクスリと笑うファランは、座る様に促し、腰を下ろしたミニョは、けれど真っ直ぐ前を見据え、その表情に眉間を寄せられて俯いた。
『あ・・・えと・・・そ・・・』
『それで、話って何かしら!?記事の事!?』
ミニョの態度を訝しみながらミナムと同じ様に両親の事を聞きに来たのかと考えるファランは、それとも隠し子がいると発表した事かと考え、それならテギョンも承知していると強気に考えていた。
けれど、ミニョの口から出て来た言葉に音を立てたグラスと瓶を慌てて持ち直した。
『えっ!?』
聞き返す言葉に力は無い。
呆然と手を伝っていくワインにタオルを当て、きょとんと手元を見ているミニョを見ていた。
『な・・・んて言ったの!?』
『ぁ・・・えと・・・その・・・』
同じ言葉を繰り返し、恐縮したミニョは、ますます小さくなる様に肩を寄せ、居住まいを正したファランが、ミニョを見つめ、徐々に視線を落としていた。
『予定日は!?』
『あ・・・夏・・・です・・・』
これ以上何を聞けば良いとファランの頭の中で猛スピードの思考が駆け抜けていた。
テギョンがミニョと結婚するというのは、本人の口から聞かされた。
聞いてはいたが、確か、仕事の制約を取り外し、その上で、あと半年は掛かるとそう聞いていた。
しかし、目の前の現実に自分が書かせている記事の事、ふたりの結婚報道と想定していた予想が次々浮かんでは、消えていく。
『テギョ・・・』
『あっ、まだっ!えと、その言ってないのですっ!』
テギョンの名前に過剰に反応したミニョが、慌てていた。
ここへ来た理由を早口でファランに説明した。
『あっ、あの、ですから・・・その・・・私の周りに子供を産んだ方が他にいらっしゃらないので・・・』
理由は、それだけでは無かった。
芸能人として、人気が絶頂の時期にファランは、休養をとっている。
しかし、その時期は、子供をテギョンを産んだにしても誕生日から起算するとギリギリの時期である事をミニョは知っていた。
『そ・・・れで・・・お腹とか・・・目立たなかったのかなぁって思って・・・』
ミニョを見返して零れた溜息をワインを煽って呑み込んだファランは、自分のお腹に手を当てた。
摩りながら、甦る記憶に頭を振っていた。
『・・・個人差がある事だから、それは、なんとも言えないわ・・・私は、体調もそれほど悪く無かったし・・・むしろ、あの子を産んだ後の方が調子が悪くてね・・・・・・』
調子が悪くて、悪くて、悪すぎて、全てをテギョンのせいにして、世話もせず、ギョンセと三人の将来等は微塵も考えなかった。
ギョンセは、仕事を辞めてアメリカに来いと言ってくれた。
けれど、仕事と虚ろな恋とこちらが現実とテギョンを残しては出かけ、泣いてる子供に見向きもしなかった。
愛情が無かったのかといえば、そうでもない。
エゴイズム(利己主義=己を中心とした考え)という愛がそこに存在していた。
存在していたからテギョンを完全には手放せなかった。
愛されていたいと愛されているという感情。
それだって、ひとつのエゴだ。
母という存在は、赤子にとって、神に等しく、だからこそ時に叱り、時に突き放し、腕(かいな)を拡げて包み込み、成長を見守る。
けれど、ファランにそれは、出来なかった。
出来なかったが、欲っした。
神と人の相異か。
目の前に座るミニョを見たファランは、縋ったあの日を思い出していた。
許すとは言えないと言ったテギョンにいつかまた謝ってくれと言ったテギョンにオモニと呼ばれた嬉しさを思い出していた。
『・・・役に立つとは思わないけど・・・力にはなるわ・・・・・・テギョンにも・・・』
テギョンにそう考えながら問題は、ミニョの仕事だとそれは、アン社長が懸念していた事だと思い至るファランは、携帯を手に立ち上がった。
ミニョの横に腰を下ろし、その腹に手を添えた。
『テギョンに・・・あの子に早く話しなさい・・・あなたがここへ来た理由は、何となく解るわ・・・あの子の事を思ってどうするのが一番良いか考えているのでしょう・・・私に聞きたい事があるというのは口実よ・・・どうするかは、あなたが決めれば良い事・・・何と言われようとあなたは、あなたを守れば良いのよ、貴方が信じれば良いの・・・自分を信じなさい・・・産みたいという気持ちを信じなさい・・・』
それは、それは、且つてファランが自分で問いた疑問だ。
愛している男がいた。
愛を囁いてくれる男がいた。
そのどちらをも本当に愛したのか今では定かではない。
ただ、ファン・テギョンを息子を愛している。
それを胸に秘め、零れるミニョの大粒の涙を拭っていたファランだった。